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第113回国際研修

平成11年(1999年)8月30日から同年11月19日

1 研修の主要課題

第113回国際研修は,「公務員による腐敗行為防止のための効果的な刑事司法の運営」を主要課題として行われました。

公務員による腐敗行為は,公務員の職務の廉潔性,中立性を失わしめ,国民の中央・地方政府や行政機関に対する不信感や不公平感を醸成し,時には国や地方の統治機構や経済基盤を揺るがしかねない重大な問題であり,その防止と摘発の必要性は改めていうまでもないところであります。

しかるところ,近年多くの国において,中央政界や大企業を巻き込んだ大規模なとく職事犯から,中央・地方の官僚さらには末端公務員によるとく職事犯まで,様々な形態のとく職事犯が多発しているほか,公務員がその地位に関連して不正な利益を獲得しようとする事案があとを絶ちません。この種事犯には,犯罪組織が関与している場合が多いとの指摘もあります。また,最近,経済活動等の国際化に伴い,この種事犯の国際化の傾向が窺われます。

なお,本研修においては,「公務員による腐敗行為」は,とく職事犯に限定せず,公務員の地位や職務を利用して行う横領,背任,詐欺,脱税等をも含む腐敗的な犯罪行為を指すものとし,これらを全般的に議論しました。ここでいう公務員は,国家公務員であると,地方公務員であるとを問わず,また,政策決定権限を有する地位にある者に限ることなく,一般事務職員までを含むものとしました。

ところで,このような状況下にあって,公務員による腐敗行為を防止するとともに,これを有効に摘発し,厳正な刑事処分に賦するための効果的な方策を講じることは,刑事司法機関に課せられた重要な責務であります。しかし,公務員による腐敗行為,とりわけとく職事犯は,捜査の端緒を得て摘発するまでに大きな困難が伴うものである上,事件関係者の捜査・公判に対する非協力,刑事司法機関の人的・物的な制約と捜査手法に関する法令上の制限,さらには捜査関係者の捜査意欲と技術の不足等,種々の要因が重なり合い,多くの国において刑事司法がこれに有効・適切に対処し得ているか疑問なしとしない。また,公務員の腐敗行為を防止するためには,刑事司法が有効・適切に対処するほかに,公務員の地位,待遇,規律の向上,更には法律改正を含む制度改革や外部的監査制度の充実等についても全般的に検討されなければなりません。本研修は,各国において,公務員の腐敗の防止・取締りなどに関与する警察,検察,裁判,その他の刑事司法関係者の参加を求め,各国における公務員の腐敗行為の現状及びこれに対する刑事司法の対応の現状と問題点,公務員による腐敗行為の原因や背景事情を明らかにして,この種事犯防止のための具体的方策を検討するとともに,この種事犯に対し,より効果的に対応できる刑事司法制度の在り方を探求し,これを適正に運営するための具体的方策を検討しようとするものでした。

以上の観点から,本研修において検討・討議された諸点は以下のとおりです。

(1)公務員による腐敗行為の実情

  • ア 腐敗行為の実体とその原因,背景(国内的な,あるいは国際的な犯罪組織との関連を含む。)
  • イ 腐敗行為防止のための法制度
  • ウ 腐敗行為の処罰規定とその内容
  • エ 腐敗行為の摘発状況,刑事処分の実情

(2)公務員による腐敗行為に対する刑事司法の対応上の問題点と対策

  • ア 捜査処分上の問題点と対策
    • (ア) 捜査機関の独立性・中立性を確保する上での問題点と対策(特別捜査機関の設置を含む。)
    • (イ) 摘発及び捜査遂行上の問題点と対策(情報収集,関係者の協力の確保,捜査能力の向上,捜査期間の確保,捜査機関相互の連携等を含む。)
    • (ウ) 捜査手法の実情と新規の捜査手法の導入の必要性
    • (エ) 取締法令の拡充・整備の必要性
    • (オ) 捜査訴追機関による事件処理上の問題点と対策
  • イ 裁判上の問題点と対策
    • (ア) 裁判の独立性・中立性を確保する上での問題点と対策
    • (イ) 腐敗行為事犯の公判運営上の問題点と迅速かつ効率的な公判運営方策について(証人保護や立証責任の転換等制度・法改正の必要性を含む。)

(3)公務員による腐敗行為の一般的な防止方策

  • ア 行政機関等における公務員の採用・待遇・規律・人事異動の実情及び問題点並びにその対策
  • イ 公務員倫理規定の制定及びその充実強化,高級公務員の資産公開制度の導入
  • ウ 行政機関等における内部監査,懲戒処分の実情及び問題点並びにその対策
  • エ 行政機関等と刑事司法機関との連携の実情及び問題点並びにその対策
  • オ 外部者による監査制度・オンブズマン制度の導入,世論の啓発

(4)公務員による腐敗行為についての国際協力

  • ア この種事犯における犯罪人引渡しについての実情,問題点と対策
  • イ この種事犯における捜査共助,その他の国際協力の実情,問題点と対策

2 客員専門家による講義の概要(講義日程順・肩書は講義当時のもの)

  • (1)A・ディードリック・キャストバーグ氏(Professor Anthony Didrick Castberg)
    米国ハワイ大学ヒロ校政治科学部 教授
    *講義テーマ
    「効果的な汚職対策」
    「合衆国における汚職と財務運動」
    「薬物犯による公務員の汚職」
    「アジアとの比較における合衆国の汚職の特徴」
  • (2)アブドュル・アジズ氏(Tunku Abudul Aziz bin Tunku Ibrahim)
    マレイシア 行政等に係る透明性国際委員会副委員長
    *講義テーマ
    「共同統治−経済回復における透明性と責任」
    「汚職追放−マレイシアの経験」
  • (3)トーマス・チャン(Mr.Thomas Chan)
    中国香港特別行政区汚職対策委員会汚職防止部長
    * 講義テーマ
    「香港における汚職対策委員会による汚職の取組」
  • (4) ローレンス・ジョバチニ氏(Ms. Laurence Giovacchini)
    フランス司法省汚職防止中央局特命担当補佐官
    *講義テーマ
    「腐敗に係る国際戦略策定のための政府専門家会合」
    「フランスにおける汚職対策」
  • (5)マイケル・ディフェオ氏(Mr. Michael A. Defeo)
    米国司法省連邦捜査局監察部長
    *講義テーマ
    「合衆国における汚職の現状」
    「汚職捜査の実務」
    「公務員倫理」
  • (6)ドナルド・ケニス・ピラゴフ氏(Mr. Donald Kenneth Piragoff)
    カナダ司法省刑事司法政策局首席法律顧問
    *講義テーマ
    「国際的観点から見た汚職対策」

3 特別講師(講義日程順・肩書は講義当時のもの)

  • (1)樋口 晴彦氏(国際捜査研修所教授)
    日本の刑事司法制度:警察
  • (2)世取山 茂氏(警察庁刑事部捜査第二課課長補佐)
    警察による汚職犯罪の捜査
  • (3)松尾 邦弘氏(法務省刑事局長)
    日本の刑事司法における課題
  • (4)笠間 治雄氏(東京地方検察庁特別公判部長)
    東京地検特捜部による汚職犯罪の捜査及び特別公判部による公判の実例
  • (5)野々上 尚氏(法務省刑事局刑事課参事官)
    汚職犯罪対策立法について−外国公務員に対する賄賂の防止を中心に−
  • (6)(6)渡辺 雅幸氏(会計検査院調査課総括副長兼国際協力官)
    会計検査院の組織と権限について
  • (7)大渕 敏和氏(東京地方裁判所刑事第11部判事)
    汚職犯罪の裁判における問題点
  • (8)枝根  茂氏(日本工業大学工学部共通系助教授)
    オンブズマン制度
  • (9)敷田  稔氏(アジア刑政財団理事長)
    アジア刑政財団の役割
  • (10)横山  均氏(総務庁行政管理局行政情報システム企画課情報公開施行準備室副管理官)
    情報公開法の制定経緯,概要及びその意義
  • (11)上野陽一郎氏(人事院国際課主任国際専門官)
    日本の公務員制度−公務員倫理,最近の公務員の規律違反および処分の実情
  • (12)R.Kラグファヴァン氏(Mr.R.K. Raghavan,インド中央捜査局長)
    インドにおける公務員汚職に対する新制度
  • (13)松本  裕氏(法務省刑事局公安課局付)
    児童買春等の処罰に関する法律について
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