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第112回国際研修

平成11年(1999年)4月12日から同年7月2日

1 研修の主要課題

第112回国際研修は,「より公正かつ効果的な刑事司法行政の実現に向けた市民及び被害者の参加」を主要課題として行われました。

近年,犯罪の増加や凶悪化がますます市民生活の脅威となり,社会の発展や繁栄のために公正かつ効果的な刑事政策の実現が強く求められています。ただし,それは単に国等の公的機関の活動によってのみ達成できるものではなく,刑事政策活動への一般市民の参加・協力がなければなりません。これまでにも犯罪予防活動から犯罪捜査・訴追・裁判・犯罪者の社会復帰に至るまでの各段階において市民の参加・協力が重要な役割を果たしてきました。地域防犯及び啓発活動における市民の参加・協力,犯罪の摘発・訴追への市民の参加・協力(参考人及び証人としての協力,不起訴決定に対する不服申立手続への市民の参加等),裁判への市民の参加・協力(参審制等),刑務所の運営や改善更生プログラムへの市民の参加・協力(篤志面接委員等による施設訪問・受刑者面接や刑務作業への協力等),釈放された犯罪者等の地域における指導・援護活動への市民の参加・協力(保護司制度やハーフウェイハウスの運営等)等はその例です。しかし,なお多くの国において,刑事司法行政に対する市民の不信,急激な都市化等を背景とする地域社会の解体,市民参加を得るための政策の未確立等の諸事情から,刑事司法行政への市民の参加・協力は十分に得られていないのが実情です。

また,公正かつ効果的な刑事司法の運用を図り,刑事司法に対する国民の信頼と協力を得るためには,犯罪者に対する公正かつ人道的な取り扱いに努めるとともに,刑事司法手続において犯罪被害者(以下単に「被害者」という。)の権利及び利益の保護に対する十分な配慮がなされることが重要です。しかし,被害者は犯罪の直接の被害を被った当事者でありながら,わずかな例外を除き被害者の権利・利益の保護に特別の配慮がなされることはむしろ少なく,刑事司法制度が被害者に対する公正に欠けているとの見方が強まってきています。被害者の援助や刑事司法への参加は公判前,公判,公判後の各段階において様々な形態があり,例えば,被害者の告訴,私人訴追,不起訴決定に対する不服申立て,犯罪直後の精神的支援,犯罪被害者補償制度の充実,被害者・加害者和解プログラムの提供,証人となる被害者に対する保護及び支援,児童・性犯罪被害者等に対する訴訟手続面での特別な配慮,受刑者情報の提供や早期釈放決定への関与,釈放された犯罪者の被害者に対する接触禁止等の政策や実践があります。しかし,このような施策は,欧米諸国等で先駆的に試みられているものの,アジアやアフリカ地域等では,なお未発展な段階に止まっているのが現状です。

ところで,市民の参加・協力については,これまで既に多くの国が,問題意識をもって取り組んでおり,国連でも長年にわたり継続的に討議がなされ,数多くの最低基準規則等においてその重要性が指摘されています。また,被害者の参加・協力についても,「犯罪及び権力濫用の被害者のための正義公正の基本原則に関する国連宣言」(1985年)等が国連総会において採択され,被害者の地位向上の必要性が認められています。西暦2000年の第10回国連犯罪防止会議でも,犯罪防止における地域社会の参加及び犯罪者と被害者の双方に配慮した刑事司法の実現をそれぞれ主要課題の一つとして取り上げることとなり,現在その準備が進められているところです。しかし,依然として多くの国において,必ずしもそれらが政策・実務に十分反映されておらず,それぞれの国が国際的な成果を踏まえつつ現状に即した政策・実務を発展させることはとりわけ重要な課題となっています。以上の状況にかんがみ,本研修は,アジア・太平洋諸国,その他研修参加各国での刑事司法行政における市民及び被害者の参加・協力の現状と問題点を明らかにし,問題点の解決のための方策を検討することによって,参加各国においてより公正かつ効果的な刑事司法行政の促進と発展を図ることを目標とします。

以上の観点から,本研修において検討・議論された点は以下のとおりです。

(1)犯罪予防活動における市民の参加・協力の現状と問題点及び対策

(2)捜査・訴追・裁判等における市民の参加・協力の現状と問題点及び対策

(3)犯罪者の処遇における市民の参加・協力の現状と問題点及び対策

(4)被害者の援助と刑事司法への参加に関する現状と問題点及び対策

2 客員専門家による講義の概要(講義日程順・肩書は講義当時のもの)

  • (1)エザット・A・ファター氏(Prof. Dr. Ezzat A. Fattah)
    カナダ サイモンフレイザー大学犯罪学部名誉教授
    *講義テーマ
    「カナダの被害者保護」
    「今日の被害者学:最近の理論的発展と実務への反映」
    「被害者賠償及び被害者・犯罪者和解の理論と実務に関する考察」
    「犯罪者の更生及び社会復帰における被害者学の不可欠な役割」
  • (2)ジョン・ブライアン・グリフィン氏(Mr. John Brian Griffin)
    オーストラリア ビクトリア州法務省公営矯正保護局長
    *講義テーマ
    「犯罪者処遇への私人参加:刑事司法における私企業への業務委託」
    「犯罪者処遇(社会内処遇)における新しい取組」
    「刑事司法における市民及び被害者の参加」
  • (3)エバーハルト・ジギスムント(Mr. Eberhard Siegismund)
    ドイツ連邦共和国 連邦司法省R局B部・部長
    * 講義テーマ
    「最初の被害者保護法によって発展したドイツにおける付帯手続制度:検討のための試み」
    「ドイツの刑事訴訟手続における名誉裁判官の機能」
  • (4)ジャーマル・シン氏(Mr. Jarmal Singh)
    シンガポール共和国 シンガポール警察警務局次長
    *講義テーマ
    「犯罪防止:シンガポールのアプローチ」
    「シンガポールにおけるコミュニティ・ポリーシング」
  • (5)ヘザー・カートライト氏(Ms. Heather Cartwright)
    アメリカ合衆国 連邦司法省犯罪被害室室長補佐・検事
    *講義テーマ
    「合衆国の刑事司法手続における被害者の位置づけ」
  • (6)ウグリィジェサ・ズベッキ氏(Mr. Ugljesa Zvekic)
    国連地域間犯罪司法研究所 副所長
    *講義テーマ
    「世界的に見た犯罪被害者化」
    「犯罪防止における市民の経験」
    「国際的な視野から見た保安と刑事司法に対する市民の評価」

3 特別講師(講義日程順・肩書は講義当時のもの)

  • (1)樋口 晴彦氏(警察庁国際捜査研修所教授)
    日本の刑事司法制度:警察
  • (2)高木 勇人氏(警察大学校警察政策研究センター教授)
    日本の地域警察活動及び犯罪予防活動
  • (3)太田 裕之氏(警察庁長官官房給与厚生課 犯罪被害者対策室長)
    日本の警察段階における被害者支援の現状
  • (4)本江 威憙氏(法務省保護局長)
    保護行政における当面する課題
  • (5)鈴木 義男氏(国士舘大学講師)
    刑事司法における市民の参加・協力の現状と諸問題
  • (6)酒井 邦彦氏(法務省刑事局官房参事官)
    刑事司法の当面する課題
  • (7)伊藤  納氏(東京地方裁判所判事)
    日本における刑事裁判の課題
  • (8)坂井 一郎氏(法務省矯正局長)
    矯正行政における当面する課題
  • (9)森本 和明氏(法務省刑事局付検事)
    犯罪被害の回復を巡る法改正の動向
  • (10)横山  実氏(國學院大学教授)
    日本及び諸外国の刑事司法分野における市民の参加・協力の形態並びに関連する諸問題及び対策
  • (11)太田 達也氏(慶應義塾大学助教授)
    アジアにおける被害者の法的地位とその改善に関する比較研究
  • (12)小西 聖子氏(武蔵野女子大学人間関係学部教授)
    犯罪被害者の心理と犯罪の影響と回復
  • (13)宮澤 浩一氏(中央大学教授)
    国際的な被害者学及び被害者保護立法の動向
  • (14)高取 健彦氏(科学警察研究所主任研究官)
    地域社会と警察活動
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