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第120回高官国際セミナー

平成14年(2002年)1月15日から同年2月15日

1 研修の主要課題

第120回高官国際セミナーは,「刑事司法における警察及び検察の効果的運営」を主要課題として行われました。

犯罪問題は,いかなる国においても主たる関心事です。社会が急激に発展,変化するにつれて,犯罪もまた,一層複雑化し,巧妙化してきています。犯罪が急激に増加しているばかりでなく,組織犯罪や国境を越えた犯罪といった複雑化した犯罪が増加していることもまた,社会に対する重大な脅威となっています。もとより,刑事司法に携わる者は,犯罪対策に全力を挙げてきてはいますが,遺憾ながら,刑事司法制度は,常に効果的かつ効率的に作用しているとは言えません。刑事司法制度に関する問題を概観するに,その制度の目的達成を阻害している主要な要因は,刑事司法手続の初期の段階(すなわち捜査及び訴追段階)における担当機関が,その役割が極めて重要であるにもかかわらず,期待されているほどにその機能を効率的かつ完全に果たしてないことにあると思われます。換言すると,不十分な捜査及び不適切な事件スクリーニングは,低い有罪率,過剰な裁判の係属,裁判手続の遅延,には未決拘禁者の増加といった刑事司法に関わる様々な問題を惹起しているのであって,かかる事態は,被告人に対する重大な人権侵害である上,その社会的影響も大きいのです。

そこで,このような事情を踏まえ,いくつかの国においては,警察及び検察に関する制度的あるいは機能的な改革が行われ,又は,現に行われつつあります。さらに,2002年開催予定である第11回国連犯罪防止刑事司法コミッションの議題の一つは,「刑事司法改革」と予定されています。したがって,今,刑事司法制度,特に,全体としての制度改善という観点から,警察及び検察について再検討を加えることが,まさに時宜を得ているものといえます。この両機関が効果的及び効率的に機能しなければ,いかなる法律も国際条約も,犯罪対策のために期待されたその効果を発揮することなどあり得ないのです。

警察及び検察に関する問題点を考えるに,第一に,我々の議論は,警察組織にその焦点を当てなければなりません。警察制度それ自体がその任務を首尾良く遂行するために十分に組織化されていなければならないことは,言を待ちません。また,異なる捜査機関相互間あるいは国家本部と地域警察との間における効率的な協力及び調整も必要です。

効率的な捜査を阻害する問題の中では,恣意的な政治的影響が,最大の懸念事項の一つです。したがって,恣意的な政治的介入や圧力に基づく不当な外部的影響を容認しない保護措置をいかにして構築するかについて議論することが不可欠です。

第二に,警察と検察官との関係の問題があります。両者は,その役割にかんがみれば,本質的に連携し,不可分の関係にありますので,捜査を成功させるためには,相互に補完し合わなければなりません。両機関の効果的な協力関係が実現されるべきです。いくつかの国においては,検察官が,初期の段階から警察と協議し,警察の独立性を尊重しつつ,捜査を完遂させるべく,警察に対して助言や指示を与えています。検察官に与えられた権限は国によって様々ではありますが,警察と検察官との間の協力を確保して捜査を効率的に成功させるための最善の制度及び実務の在り方について,議論し,これを探求することが重要です。

第三に,検察機能,とりわけ事件スクリーニングをいかに強化するかについて議論しなければなりません。もとより,事件スクリーニングの制度や起訴に当たって求められる証拠の基準は国によって異なりますが,担当機関(検察官,警察訴追官,予審判事又は裁判所)が事件スクリーニングを効果的かつ適切に行うことが,刑事司法制度を健全かつ効率的に運営する上で,必要不可欠です。加えて,この問題を検討する場合には,事件スクリーニングをより効果的に行うにはいかなる機関がこれを行うのが適当か又はいかなる制度が適当かといった問題にも直面することになるでしょう。

以上の状況を十分に踏まえ,本セミナーでは,各国の刑事司法制度の現状及び問題点を明らかにして分析した上で,警察及び検察のより効率的な運営を探求することを目的として実施しました。

本セミナーで検討された主な論点は,次のとおりです。

(1)効率的な警察制度

  • ア 現状と問題点
  • イ 警察制度を改善するための考え得る方策
  • ウ 恣意的な政治的及び外部的影響からの独立

(2)警察と検察官との協力

  • ア 警察と検察官との間の制度的協力関係
  • イ 検察官による警察に対する助言及び指示など,捜査における検察官の役割

(3)検察官又は他の担当機関による効果的事件スクリーニング

  • ア 現状と問題点
  • イ 事件スクリーニングを改善するための方策

2 客員専門家による講義の概要(講義日程順・肩書きは講義当時のもの)

  • (1)キム・ユンチェル氏(Mr. Kim, Young-Chul)
    韓国司法研修院教授
    *講義テーマ
    「韓国における効果的な犯罪捜査及び検察制度」
  • (2)ピーター・ボーフ氏(Mr. Peter Boeuf)
    連合王国ロンドン地方検察庁検事正
    *講義テーマ
    「刑事司法における警察及び検察の効果的運営」
  • (3)エバーハルト・ジーギスムント氏
    ドイツ連邦司法省司法制度局部長
    * 講義テーマ
    「ドイツ刑事手続における参審制の機能」
    「ドイツ検察庁―法的地位,機能,組織」
    「捜査手続における警察の権限」
  • (4)キティポン・キタヤラク氏(Dr. Kittipong Kittayarak)
    タイ司法省保護局長
    *講義テーマ
    「1997年のタイ憲法と刑事司法改革に与えた影響」
  • (5)A. ディードリック・キャストバーグ氏(Prof. Anthony Didrick Castberg)
    米国ハワイ大学ヒロ校政治学部教授
    *講義テーマ
    「アメリカ合衆国における警察及び検察の効果的運営」
  • (6)ムハンマド・ショアイブ・サドル氏(Dr. Muhammad Shoaib Suddle)
    パキスタン・バロチスタン地区警察本部長
    *講義テーマ
    「パキスタン警察改革:1つの概観」

3 特別講師(講義日程順・肩書きは当時のもの)

  • (1)古田 佑紀氏(法務省刑事局長)
    「日本の刑事司法の抱える課題」
  • (2)高木 勇人氏(警察庁長官官房総務課企画官室理事官)
    「警察改革」
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