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国際研修・セミナー 国際研修・セミナー

第116回国際研修

平成12年(2000年)8月28日から同年11月15日

1 研修の主要課題

第116回国際研修は,「刑事司法における国際組織犯罪と闘うための効果的な方策」を主 要課題として行われました。

国際組織犯罪は,国際社会の安全と主権国家の安定にとって,ますます大きな脅威となりつつあります。国際組織犯罪は,国家経済及び世界的な金融制度,法の支配,並びに基本的な社会的価値観の信頼性を損なうとともに,汚職腐敗を生む要因となり,また,特に新生民主国家や開発途上国をむしばむことが,深く憂慮されるところです。

麻薬犯罪,マネーローンダリング,暴力行為及び恐喝,汚職腐敗行為,女性や児童の不法取引,銃器の不法製造及び不法取引,不法入国者の密輸,環境犯罪,カード詐欺,コンピューター関連犯罪,盗難車両不正取引,産業スパイ,海賊行為,知的所有権侵害その他の組織犯罪は,アジア・極東地域を含む世界のさまざまな国々において重大な問題となっています。

国連は,こうした深刻な状況に対する認識に基づいて,国際組織犯罪の問題に対し,積極的な取組を行ってきています。まず,1994年に国連組織犯罪対策閣僚級会議が開催され,「国際組織犯罪に対するナポリ政治宣言及び世界行動計画」が採択されました。同宣言は,その後国連総会によって承認されております(国連総会決議49/159。1994年12月23日採択)。

また,1998年12月9日に採択された国連総会決議53/111に基づいて,国際組織犯罪対策条約起草特別委員会が設立されました。同委員会は,国際組織犯罪に対する包括的な国際条約の起草作業,及びそれと並行して,適切な場合には,女性と児童の取引,銃器・弾薬等の不法製造及び不法取引,並びに不法入国者の不正取引の問題を取り扱う国際文書の起草について議論するとの任務を付与され,現在,同委員会において,西暦2000年末までの条約の採択を目指して,起草作業が精力的に行われております。

このような状況を踏まえて,国連の犯罪防止及び犯罪者処遇に関する地域研修所の一つである当研修所としては,「国際組織犯罪対策」を今後,実施する一連の国際研修及び国際セミナーの主要課題の一つとしてとらえることとしました。

国際組織犯罪と闘うために,国連犯罪組織犯罪対策条約案は,様々な対策を提案しています。

立法においては,犯罪組織への参加の犯罪化(3条),マネーローンダリング行為の犯罪化(4条),犯罪組織が関係する重大犯罪に関与した法人の刑事責任(5条),犯罪収益没収規定の制定(7条),証人への贈賄行為並びに証人及び公務員への脅迫行為の犯罪化(17条)などが提案されています。

捜査に関し,条約案は,締約国に対し,コントロールド・デリバリー(Controlled Delivery),電子的又はその他の形での監視(Electronic Surveillance),おとり捜査(Undercover Operation)などといった特別な捜査手法の活用を求めています(15条)。各国は,刑事手続において,そうした新しい技術の導入可能性を探求する必要があります。この関連で,条約案は,締約国に,ビデオリンク方式又はその他の最新の通信技術を活用した証言や供述に証拠能力を認める証拠法の導入を求めています(18条1項)。

さらに,同条約案は,締約国に対し,刑事手続において,証人や被害者が報復や脅迫を受けるおそれがある場合に適切な保護策を講ずべきことや,捜査及び裁判に協力的な者に対する刑事免責(Immunity)の付与について検討すべきことを求めています(18条1項,18条の2,18条の3第2項の2)。

上記の手法に加え,被疑者の取調べ,証人・参考人からの事情聴取,関係証拠の捜索差押え,尾行・行動確認などといった伝統的捜査手法も,国際組織犯罪の摘発,捜査,訴追及び裁判には必要かつ重要です。したがって,本研修においては,そういった伝統的捜査手法を採用した成功例や実務例についても討議されるべきです。

また,捜査共助や犯罪人引渡しなどといった刑事事件における国際協力は,国際社会が,上記各対策を実行し国際組織犯罪と効果的に闘う上での重要な武器になるものと理解されています。

このように,国際組織犯罪に対し,有効に捜査,訴追及び裁判を行うために,各国の国際組織犯罪情勢を分析するとともに,国際組織犯罪対策の導入可能性及びその様式を検討することは重要です。

以上の趣旨を踏まえ,本研修では,国際組織犯罪と闘うための対策や手法を強化改良する方策が探求されました。特に,捜査,訴追及び裁判各過程における効果的な方策について焦点を当てて検討が行われました。世界各国に共通する諸問題に対し,他の国々がどのように取り組んでいるかについての実務的な情報や経験を交換しこれを共有することは,国際組織犯罪に対する我々の努力の一層の促進に資するものであると考えられます。

本研修における議論の焦点は,次のとおりです。

(1)国際組織犯罪の概観

  • ア 違法麻薬取引,銃火器の不法取引,人(特に婦女子)の密輸,盗難車両の不法取引,カード詐欺,マネーローンダリングなどの現状(ただし,テロは除く)
  • イ 主な国際組織犯罪集団の現状

(2)捜査段階における国際組織犯罪に対する手法

  • ア コントロールド・デリバリー,電子的監視(通話傍受など),及びおとり捜査の現状,それらを活用する上での問題点,並びにその対策
  • イ 被疑者取調べ,証人からの事情聴取,捜索差押え,尾行及び行動確認などの伝統的捜査手法を活用した成功例及びその限界

(3)組織犯罪者を処罰するために証人からの協力を得るための方策
刑事免責,証人又は被害者保護制度の現状,それらを活用する上での問題点,並びにその対策

(4)捜査段階における国際組織犯罪に対する手法

  • ア 犯罪集団への参加行為の犯罪化
  • イ マネーローンダリング行為処罰制度の確立
  • ウ 没収制度の確立(特に組織犯罪行為によって得られた犯罪収益)

(5)国際組織犯罪対策としての国際協力(犯罪人引渡し及び捜査共助)に関する成功例

2 客員専門家による講義の概要(講義日程順・肩書は講義当時のもの)

  • (1)ヤン・タットーウィン,ピーター氏(Mr. Yam Tat-wing, Peter)
    香港警察庁長官補 (刑事担当)
    *講義テーマ
    「香港における国際組織犯罪の実情と対策」
  • (2)パク・ヨン・カン氏(Mr. Park, Yong-Kwan)
    韓国法務部検察局検察一課長
    *講義テーマ
    「国際的コントロールド・デリバリー」
    「韓国における国際組織犯罪対策(立法及び捜査手法)」
  • (3)ヨハン・ペーター・ヴィルヘルム・ヒルガー氏(Dr. Johan Peter Wilhelm Hilger)
    元ドイツ連邦司法省司法法制局長
    * 講義テーマ
    「ドイツにおける電子的監視制度」
    「刑事免責制度の実情と問題点」
    「ドイツにおける組織犯罪対策(マネー・ロンダリング,没収,証人保護)」
  • (4)フランコ・ロべルティ氏(Mr. Franco Roberti)
    イタリア検事総長府マフィア対策局検事
    *講義テーマ
    「証人保護プログラム」
    「マフィア対策法とその運用の実情及び問題点」
    「受刑者移送の実施」
  • (5)ブルース・G. オー氏(Mr. Bruce G. Ohr)
    米国連邦司法省刑事局組織犯罪対策課長
    *講義テーマ
    「国際組織犯罪と闘うための刑事司法上の効果的方策」

3 特別講師(講義日程順・肩書は講義当時のもの)

  • (1)赤塚 康氏(アジア刑政財団理事)
    犯罪なき繁栄
  • (2)古田 佑紀氏(法務省刑事局長)
    日本の刑事司法の抱える課題
  • (3)井上 正仁氏(東京大学法学部教授)
    組織犯罪対策としての通信傍受
  • (4)小野 次郎氏(警察庁刑事局暴力団対策部暴力団対策第一課長)
    暴力団対策
  • (5)宇井  稔氏(東京地方検察庁刑事部副部長)
    暴力団犯罪の捜査と訴追
  • (6)飯島  泰氏(法務省刑事局付検事)
    日本における被害者保護法制
  • (7)大野  宗氏(東京地方検察庁刑事部副部長)
    国際組織犯罪の捜査,訴追をめぐる諸問題
    ─コントロールド・デリバリー及び不法収益の没収を中心に─
  • (8)池ノ上 功氏(大蔵省関税局監視課密輸情報専門官)
    税関当局からみたコントロールド・デリバリーの実施をめぐる諸問題
    ─コントロールド・デリバリー及び不法収益の没収を中心に─
  • (9)山室  惠氏(東京地方裁判所判事)
    組織犯罪関係事件の公判上の諸問題─特に「おとり捜査」,通信傍受,コントロールド・デリバリー等で得られた証拠をめぐる諸問題─
  • (10)八澤 健三郎氏(法務省刑事局付検事)
    我が国における組織的犯罪の現状と組織的犯罪対策三法の概要
  • (11)木村 匡良氏(金融庁総務企画部総務課課長補佐)
    我が国における対マネー・ローンダリング法制と金融庁特定金融情報室の役割
  • (12)津田 隆好氏(警察庁長官官房国際部国際第二課課長補佐)
    我が国における国際犯罪の現状と対策
  • (13)千田 恵介氏(東京地方検察庁検事)
    国連国際組織犯罪対策条約の概要
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