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第125回国際研修は,「国際連合の基準・規則制定50周年を迎えて−犯罪者処遇を中心として−」を主要課題として,行われました。
国際連合においては,1955年に開催された,犯罪防止及び犯罪者処遇に関する第1回国際連合会議(以下「コングレス」という。)において「国連被拘禁者処遇最低基準規則」を採択したのをはじめ,今日までに刑事司法に関して,50を超える決議,宣言,基準及び行動指針等を採択してきており*1,その範囲は,犯罪者処遇はもとより,少年司法,法執行官行動準則,司法の独立,汚職等の犯罪防止,犯罪被害者保護,修復的司法等,広範囲・多岐にわたっています。
これらの決議,宣言,基準及び行動指針等(以下,「国連基準・規則」という。)は,「世界人権宣言」*2の内容を,刑事司法の分野でより具体的に実現しようとするものであり,条約のように各国を直接拘束する効力を持っているとはいえませんが*3,その実施に向け,国連及び国連に加盟する各国において,長年にわたり努力が続けられてきたものです。
新世紀初めての国連総会において採択されたウィーン宣言には,「我々は,犯罪防止刑事司法に関する国連基準・規則が効果的な犯罪対策に向けた努力に貢献することを認識する。…(中略)…我々は,適宜,犯罪防止刑事司法に関する国連基準・規則を国内の法や実務において使用し適用するよう努める。我々は,関係係官へ必要な教育及び研修を提供し,刑事司法に関する機能を与えられた各機関の必要な強化を確保するとの観点から,適宜,関連する法的及び行政的手続の見直しを行う。」*4と明記され,国連犯罪防止刑事司法委員会においても,国連基準・規則の適用が「各国政府が刑事司法行政を向上させ,職域を超えて,専門性を改善しつつ,統合的方法で人権の基本的要素を保護するもの」*5であると確認されています。
したがって,加盟国は,これらの国連基準・規則に則って,刑事司法機関の実務を評価し,公正で効果的な刑事司法制度を築き上げていくことが求められており,国連基準・規則を積極的に国内法に取り入れ,実務に生かす取組みが世界の多くの国々で行われています*6。今や国連基準・規則は,各国の刑事司法に関する制度及び運用の改善に大きく貢献し,また各国が刑事司法制度を運営していく上で,すでに無視できないほど大きな影響力を持つものと言っても過言ではありません。
さて,犯罪者処遇に目を転じると,これに関する国連基準・規則の中のうち,採択から50年が経過しようとしている「国連被拘禁者処遇最低基準規則(以下「SMR」という。)」*7が重要です。
SMRは,一定水準の居住設備,衣類等の保障,医療の保障,残虐な刑罰の禁止,施設長等への不服申立ての権利,家族との通信・面会の権利,受刑者処遇の目的が社会復帰にあることの確認,処遇の個別化と分類処遇等,あらゆる種類の被拘禁者の処遇及び施設の管理についての最低基準を示したもので,世界各国において,これに従って立法措置を講ずるなど,その実施に向けての努力がなされてきており,施設内での犯罪者処遇の改善に寄与してきました。
SMRの重要性は,その後に採択された数多くの国連基準・規則において,SMRの精神を反映すべきことが繰り返し確認されていること等に見出すことができます*8。さらに,国連においては,従来,同規則の充足は主として各国の努力によるものとしてきたのに対し,1984年に,「被拘禁者処遇最低基準規則の効果的充足のための手続」*9を採択して,SMRの諸原則が各国の拘禁施設の管理運営に効果的に取り入れられることを目標とした,具体的手順(SMRの配布,国内法への反映,技術援助,各国における充足程度に関する報告制度の強化,救済手続,基準規則の再検討及び改正の勧告)を定めました。また,1990年,国連総会において,SMRの完全な実施が,その基礎にある基本原則を明らかにすることにより促進されるであろうということを念頭に置き,全ての被拘禁者は人間としての尊厳と価値を尊重されることなど,被拘禁者の処遇に当たっての基本原則を明らかにするものとして,「被拘禁者処遇基本原則」*10が採択され,SMRの内容を補強しています。
他方,世界の多くの国で,SMRを始めとする国連基準・規則の実施を阻む様々な状況も存在します。さまざまな刑事拘禁施設における被収容者数の顕著な増加はその一例です。最近の調査によると,全世界で875万人が刑務所等に拘禁されており,多くの国で刑務所人口が増加しています*11。
増加する被収容者数に拘禁施設の居室数が追いつかないため,世界の多くの国々で過剰収容が問題となっており,今や「過剰収容状況が改善されない限り,刑務所のその他の面における様々な改善のための努力が意味あるインパクトを持つことは困難である。」*12とまで言われるほど深刻化しています。
しかしながら,過剰拘禁の状況にあっても,刑罰を執行する拘禁施設の公的機関としての責任が軽減されるものではありません。それらの責任とは,すなわち,被拘禁者に対しては,人道的な収容環境及び社会復帰に役立つ処遇を提供する責任,並びに,拘禁施設が閉鎖的なものであることから,被拘禁者の法的権利を保障する適切な制度を提供する責任などであり,一般社会に対しては,拘禁を確保する責任,施設の運営に係る透明性の確保及び説明責任などです。それらの問題についての規定を多く包含していることからも,SMR及びそれを補強する国連基準・規則はいまだに重要な意味を持っています。
ところで,全ての犯罪者に対して,一律に刑罰としての施設拘禁を行うことは,効率的ではありません。過剰収容となっている施設内で犯罪者に対して効果的な処遇を展開することは困難であり,軽微な犯罪者を施設に収容することは,そのような者に犯罪者の烙印を押すことになり,かえって社会復帰を阻害することにもなりかねません。そのような場合,拘禁に代わる措置の導入が効果的です。
被拘禁者の数を減らすことで,刑務所の業務負担が軽減され,施設に収容されている者に対して適切な矯正処遇の実施が可能となります。非拘禁措置は,犯罪者と社会との継続的な接触を維持することにより,犯罪者の社会再統合の助けとなり,犯罪者の改善更生を促進します。さらに,非拘禁措置は犯罪者に対するラベリングを減らし,初犯者と再犯者が同一施設に拘禁されることによって悪風に感染することを防ぎ,犯罪者が社会内で勤労を続けることによって,その家族を支援し,さらには一般社会に貢献することを助長するのです。
上記のような観点から,1990年の第8回コングレスにおいて,「非拘禁措置に関する国連最低基準規則(東京ルールズ)(以下「東京ルールズ」という。)」*13が採択されました。この規則は,様々な形態の非拘禁措置の在り方についてのガイドラインと基準を示すものであり,刑務所の過剰拘禁から生ずる問題を軽減し,かつ犯罪者の社会復帰を促すために,社会内で実施可能な措置を拡充することを通して,拘禁の使用を減少させ,刑事司法運営を合理化することを目指したものです。この意味で,東京ルールズはSMRを補完する基準・規則としての位置付けにあるといってよいでしょう。
しかしながら,上記に述べたように,多くの国で刑務所の人口が増加し,過剰拘禁に直面しているという現状は,各国において,東京ルールズに示されている非拘禁措置の拡充措置の実施が十分に実現されていない状況があることを示しています。
このような諸事情を踏まえて,国連の犯罪予防及び犯罪者処遇に関する地域研修所のひとつである本研修所は,本研修において,広範な国連基準・規則の中から,SMR及び,東京ルールズを主としてとりあげ,施設内及び社会内における成人犯罪者の処遇の実情とその改善のための方策を考察することとしました。
研修参加者は,上記SMR及び東京ルールズを中心とした,犯罪者処遇に関わる国連基準・規則が各国の刑事司法制度及び実務に適用あるいは立法化されてきた歴史を振り返り,各国の制度及び実務における現在の状況について,それら国連基準・規則との整合性を確認し,国連基準・規則から乖離している状況があれば,その理由及び社会的・法的背景について考察することが求められました。さらに研修参加者から提供される教訓や成功した実例を共有し,論議することによって,国連基準・規則の効率的な実施についての方策を探求しました。
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